相続登記が困難になる事例
相続登記を長年放置してしまうと、不動産が負動産になってしまう数次相続と言われる実際にあった事例を簡略化してご紹介します。
A所有の不動産に、A、配偶者B、子のCの3人が居住していた事例で、全ての相続で遺言書などはありませんでした。
① A死亡
Aが死亡し、相続人は配偶者Bと子のC
② Bが子のいないDと再婚
この時点で、子Cは成人し、家を出ていたため、Dとの養子縁組はしなかった。
③ B死亡
Bの相続人は、Dと子のC。
④ D死亡
Dは、子がなく、両親等の直系尊属も他界しているため、Dの相続については、Dの兄弟姉妹が相続人。
⑤ A名義不動産の相続
Cは、使用しなくなったA名義の不動産を売却しようとしたところ、相続登記をしなければならないと司法書士に言われ、相続人を調査したところ、相続人は自分以外に、Dの相続人であるDの兄弟姉妹が3名で、既に2名が他界しており、1名は認知症であったことが判明。また、他界した2名の代襲相続人として、Dの甥、姪が海外や、遠方に数名存在していることも判明した。
上記事例の結果
上記は、長期間に渡って相続登記を放置した結果、いざ売却する段階になって、3名の相続手続きをまとめてやらなければならなくなったことにより生じた問題です。そうなると、人間関係が希薄となる人と遺産相続の話し合いをしなければならなくなり、また、連絡先が分からず、その調査に時間と費用を割かなければなりません。
① Aの死亡
この時点で、相続人は配偶者Bと子のCであったため、法定相続人はBとCで、法定相続分はそれぞれ2分の1ずつとなります。また、親子のBとCの遺産分割協議によりBまたはCのいずれかの単独所有の不動産とすることもできました。
② Bが子のいないDと再婚
再婚したことにより、推定相続人が変更されることになりました。Bの推定相続人として、Cの他にDが加わることになります。この時にAの相続手続きを済ませておくべきでした。
③ B死亡
上述の通り、Bの相続人は配偶者Dと、子のCとなり、法定相続分はそれぞれ2分の1となります。A名義の不動産を法定相続したとすると、2分の1亡B・2分の1Cの共有から、4分の3C・4分の1Dの共有へと変更となります。また、この時点で、A名義の不動産をCの単独名義に相続するには、CとDで遺産分割協議をする必要がありますが、Dは、亡Bの遺産分割協議に参加する地位を承継した者として扱われることとなります。
④ D死亡
Dの有していた、A名義の不動産に関する潜在的な相続分4分の1をDの相続人が承継することとなります。ここで、A名義の不動産をC名義に変更するには、Cは見知らぬDの相続人たちと遺産分割協議をしなければならない事になりました。その相続人が国内にいる場合は、住所は比較的簡単に調査できるので、手紙を送るなどすれば連絡を取ることはまだ可能ですが、国外の場合はそうはいきません。住民票や、戸籍の附票には転出先の国名の記載があるだけなので、現地大使館などで調査をすることになってしまいます。また、成年後見人の選任が必要な相続人がいた場合、遺産分割協議のためにその選任を家庭裁判所へ申立てをしなければなりません。人間関係が希薄な状態で、そのお願いを聞いてもらえれば良いですが、各家庭の事情等により上手く手続きを進められるかどうかは不透明な状態となることが予想されます。
⑤ A名義不動産の相続
Cは、上記の問題を長期に渡り少しずつ解決した結果、なんとか相続登記をし、不動産を売却できたものの、売却代金のほとんどが相続手続き費用に消えてしまいました。
⑥ 総括
この事例では、売却できたこと、手続き費用が売却代金で賄えたことから成功事例だと考えられます。しかしながら、市場価値の低い不動産の場合、売却代金の何倍もの手続き費用が必要となることあります。また、手続きを進めたものの、問題をクリアできずに、手続き費用だけ負担しなければならないこともあります。こうした事情が、長期間相続登記未了問題の一端ともなっています。こういった事態にならないためにも、なるべく早い相続対応が必要となります。